更年期障害とは、日常生活に支障をきたすほど更年期症状が重いことをいいます。
更年期女性の2割弱の方が経験すると言われています。
でも婦人科診療をしていると、この数字ほど患者さんはいない印象です。
更年期症状が辛くても受診しない方が大勢いらっしゃるということです。
更年期障害は治療すれば良くなる症状も多いです。
受診して色々お話していただくことで心が軽くなることもあると思います。
「いつまで続くのかなあ」
「これって更年期の症状かなあ」
更年期症状についてはこちら↓

さて更年期障害の治療といえば、ホルモン補充療法(HRT)と漢方治療が二本柱です。
今回はホルモン補充療法(以下HRT)のことをお話します。
ホルモン補充療法
ホルモン補充療法にはエストロゲンだけを補充する場合と
エストロゲンとプロゲスチンを補充する場合があります。
この二つのホルモンは元々卵巣から分泌されている女性ホルモンです。
手術などで子宮がない方はエストロゲン
子宮がある方はエストロゲンとプロゲスチンで治療します。
なぜ子宮があるときにプロゲスチンを使うかというとプロゲスチンには子宮内膜癌を防ぐ内膜保護作用があるからです。
つまりホルモン補充療法はエストロゲンを補充する治療です。
更年期になりエストロゲンが低下することによって起きる様々な症状を和らげるために少量のエストロゲンを補充してあげるのです。
代表的な効果を挙げてみます。
1. ホットフラッシュや発汗の改善
更年期の代表的な症状であるほてりや発汗を和らげる効果があります。治療を開始すると、早い人では数日から数週間で症状の軽減を実感でき、2ヶ月継続すると約9割程度改善すると言われています。
2. 骨密度の維持と骨粗しょう症の予防
エストロゲンの減少は骨密度の低下につながり、骨折のリスクを高めます。ホルモン補充療法は骨密度を維持し、骨粗しょう症を予防する効果があります。
3. 膣の乾燥や性交痛の改善
エストロゲンは膣の潤いを保つ働きがあります。ホルモン補充療法を行うことで、膣の乾燥や痛みが軽減し、性交時の不快感が改善することが期待されます。
その他、気分の落ち込みを回復する、関節痛や手指の痛みを軽減する、不眠改善、美肌効果、そしてHDLコレステロール(善玉コレステロール)を増やしLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を減らし動脈硬化の予防もしてくれます。
ホルモン剤に対して抵抗感がある方もいらっしゃいますが、
ホルモン補充療法は様々な症状を改善してくれるだけでなく、骨を強くする、動脈硬化を予防するという閉経後の健康維持にも役立つのです。
一方、ホルモン補充療法は誰もが受けられる治療ではありません。
受けられない人、注意が必要な人がいます。
受けられない人
• 乳がん、子宮体がんの既往がある
• 原因不明の不正出血がある
• 血栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症など)の既往がある
• 重度の肝障害がある
• 心筋梗塞や脳梗塞を起こしたことがある
注意が必要な人
• 高血圧や糖尿病がある
• 喫煙習慣がある
• 肥満(BMI30以上)
• 乳がんの家族歴がある
当てはまる方は漢方治療という次の手があります。
漢方についてはまたの機会で触れます。
ホルモン補充療法にはさまざまなタイプの製剤があります。
1. 経口薬(飲み薬)
2. 貼り薬(パッチ)
3. ジェルやクリーム
4. 膣剤(膣錠・膣クリーム)
経口薬とジェルは基本的に毎日、貼り薬は1週間に2回張り替え、膣剤は症状があるときに、と使い方が違います。経口薬より貼り薬やジェルの方が血栓症のリスクが低いとわかってきたため、最近は貼り薬を処方することが多くなってきました。
とはいえ50代60代の方の経口薬の血栓症のリスクは1000人に1.1人、1.6人とかなり低く、喫煙、肥満、生活習慣病などがない方が使う分には問題ないと考えています。
ホルモン補充療法の始めどきは、
です。
ホルモンが急低下するこの時期は不調を感じやすく、治療効果が得られやすいからです。
また動脈硬化を予防するには閉経後5年以内の開始が望ましいというデータが出ています。
他にも骨粗鬆症を予防する、美肌を保つなどアンチエイジング効果も期待できます。
早期に治療を始め体内のエストロゲン量の維持が中断する期間を短くした方が良いということです。
ではホルモン補充療法はいつまで続けて良いのかというと、以前は5年までと言われていました。
近年では経過観察と定期的な健診を受けていれば一生継続することも可能、
個人それぞれの状態を診て柔軟に対応しましょうというふうに考え方が変わってきました。
5年までと言われていた理由は、5年以上継続すると乳がんのリスクが上がるといわれていたためです。
しかし最近になり、乳がん発症リスクの上昇はかなりわずかだとわかってきました。
治療しない人1000人のうち3人が乳がんを発症したのに対し
ホルモン補充療法を受けた人1000人では3.8人の発症だったということです。
早期に治療を開始し長期継続することで、狭心症や心筋梗塞の予防効果があるということもわかってきました。
生涯にわたって骨や血管や肌、髪を若々しく保つためにホルモン補充療法を続けるという選択肢もあります。
ホルモン補充療法にはマイナートラブル(軽微な副作用)があります。
これらは心配はないものですがちょっと鬱陶しいかもしれません。
でもほとんどの場合は飲み続けると治っていきますし、投与量を調整することで軽減できます。
1. 不正出血
2. 乳房の張りや痛み
3.腹部の張り
4.むくみ
そしてホルモン補充療法のリスクとしては
・血栓症
・乳がん
・卵巣がん
が挙げられます。
血栓症は貼り薬を選ぶとリスクが低いですが、経口薬であっても1000人に1.6人くらいの低いリスクなので生活習慣病や喫煙、肥満など血栓症のリスクが低い人が使う分には問題ないと考えます。
乳がんの発症リスクは1000人に1人以下程度増加します。
しかしこれはアルコール摂取や肥満、喫煙など生活習慣のリスク上昇と同程度かそれ以下です。
卵巣がんのリスクについてはホルモン補充療法の継続期間が長いほど上昇の可能性があるとされていますが、1000人中1人程度です。
血栓症やがんのリスクを上げるような生活習慣(アルコール摂取、喫煙、食事、睡眠、運動)を避け、良い生活習慣を長く継続することが大切です。
そうした健康な人はホルモン補充療法を続けることもでき、さらに若々しくイキイキと生きていくことができます。
自分の身体がどう変化しどんなことに気をつけて生活していったらいいのか知ることは大事な事です。